スウェーデンの建築というと、あまりピンと来る人は少ないかもしれないが、
見逃せない名建築が数々残されている。
北欧建築留学を経験した僕が実際に訪れた体験も踏まえて
スウェーデンで知っておくべき建築、建築家についてまとめてご紹介していく。
もくじ
- 1 スウェーデン建築の特徴
- 2 おすすめしたいスウェーデンの巨匠建築家7人と作品
- 3 まとめ
スウェーデン建築の特徴

スウェーデンの建築は、伝統的にレンガや木材といった材料で作られることが多く、
街中を眺めれると、他の北欧三国とよく似た建物が多い。
また、日照時間が短く、天気も不安定なため、
トップライトやハイサイドライトといった光を最大限取り入れる工夫が見られる。
おすすめしたいスウェーデンの巨匠建築家7人と作品
ラグナー・エストバーグ/Ragnar Östberg (1866-1945)
ノーベル賞受賞記念晩餐会が行われる、国際的にも有名な
ストックホルム市庁舎を設計した国民的建築家。
現存するスウェーデンの赤レンガ建築の傑作は主に、
エストベリが手がけたといって差し支えはない。
彼が手がけたのは、ナショナルロマンティシズムという様式で、
レンガや、切妻屋根といった民族的で、牧歌的な建築様式を指す。
ナショナルロマンティシズムとは元々、フランス、イギリス、イタリアといったいわゆるヨーロッパの中心国による欧州的価値観を乗り越えようとする、ヨーロッパ周縁の国々による民族回帰的傾向を指すのだそう。強い民族意識を極端な政治思想にまで発展させたドイツファシズム政権もこの運動が前身。
ストックホルム市庁舎/ Stockholm City Hall (1923)

ナショナルロマンティシズムとは言われるこの建築だが、
実はヴェネチアのサン・マルコ広場に面したドゥカーレ宮殿(Palazzo Ducale)にヒントを得て作ったと言われている。
確かに海面へとつながるアーチ状のピロティなんかはよく似ているが、
他の北欧建築同様素朴なレンガ積みのノスタルジックな雰囲気に、
ゴシックやバロック、様々な様式の彫刻がないまぜになった
装飾群が散りばめられていて、独特の世界観が展開されている。
ハイサイドライトからの光が心地よい大空間「青の間」は、
ノーベル賞受賞記念晩餐会が毎年行われる広場としても有名。
この詩的な名前の由来は、もともと青空晴れ渡るイタリアの広場のように屋外空間として計画していたそうだが、曇天続きの北欧ではそんなことも難しく、
代わりに青く壁天井を塗る予定で基本設計を進めていたのだが、
結局はレンガの風合いを生かした今の仕上げになったそう。
舞踏会が行われる1800万枚の金箔張りの「黄金の間」には
世界のランドマーク、中心にはスウェーデンの象徴としての「メーラレン湖の女王」が描かれており、スウェーデンこそが世界の中心だというナショナルロマンチシズムとしての意思表明が伺える。
日本でいう、金閣、銀閣的なエピソードだが どの世界にも同じような話は起こり得るのだ。
グンナール・アスプルンド/Gunnar Asplund (1885-1940)
北欧建築にモダニズムの息吹を吹き込んだのが、アスプルンドである。
当時ヨーロッパで隆盛していたモダニズムを、
それまでのスウェーデンの古典様式と北欧の素朴なクラフトマンシップとをインテグレートしたバランス感覚に優れた天才建築家である。
家具デザインも秀逸で、ヨーテボリ庁舎裁判所の為にデザインしたヨーテボリGOTEBORGチェアは、
今でもおしゃれな街中のショップで見かけることができる 普遍的な一脚だ。
森の火葬場・森の墓地(スコーグスシュルコゴーデン)/The Woodland Cemetery (Skogskyrkogården)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%82%B0%E3%82%B9%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%82%B4%E3%83%BC%E3%83%87%E3%83%B3後に紹介するシーグルド・レヴェレンツと共に若干30歳でコンペで一等を取り、スタートさせた
この壮大な青焼きの地図は、後にユネスコ世界遺産として登録されることになる。
死者は森に還るというコンセプトのもと、自然と、墓地と、建築とを含めて越境的にデザインされた世界のどの断面もが美しい。
僕は歩いて全て周り切ったが、なかなか疲弊したので、苑内を回るバスを利用することをオススメする。
ーストックホルム図書館/Stockholm Public Library(1928)

度々メディアで紹介されている大変有名な図書館である。
シンメトリーな矩形と円筒型でできたキュートなファサードの内側には
知の壁と呼ばれる、壁一面が書架で埋め尽くされた
読書家にとっては天国のような空間が広がっている。
それまでの新古典主義と、これからのモダニズムの狭間のストラグルで生まれた傑作的エントランスの大階段に陣取ってとったスケッチは、今でもいい記念になっている。
後にフィンランドの巨匠アアルトの図書館建築にも多くの影響を与えている。
図書館とは得てして知の象徴として権威的に、堅苦しく設計されてきたが、この図書館は違う。丸みを帯びた曲面の書架には迎え入れられるような温かみを感じるし、いたるところに置かれた椅子のレイアウトも、緊張しすぎず、硬直し過ぎない、程よい現代にも通じる公共性が実現されている。
シーグルド・レヴェレンツ/Sigurd Lewerentz (1885-1975)
https://sv.wikipedia.org/wiki/Sigurd_Lewerentzスウェーデンの友人に勧められて訪れた聖マーク教会で度胆を抜かれて
作品集を買い求めたレヴェンツは日本ではあまり知られていない建築家である。
元は機械工学を専攻していたのもあってか、彼の晩年のキャリアの傑作である教会の金物使いにはどことなくインダストリアルな雰囲気が感じ取れる。
ー聖マルコ教会 Church of St. Mark(1960)

この教会の内部空間の作り込み方には、圧倒された。
モダンで、ノスタルジックで、バロックだと思った。

僕の脳内では類似体験として、イタリアの建築家カルロ・スカルパの内部空間が思い起こされていた。
アスプルンドと共にイタリアを研修旅行し、大いに影響を受けてスウェーデンに帰ってきたとされているレヴェレンツは、オリベッティの大胆な素材遣いと自由自在な金物造形をずっとその胸に温め続けていたのかもしれない。
フラワーショップ/The flower shop

スイスあたりの建築家を想い起こさせるコンクリート打ちっ放しのアイコニックなフォルムは、当時の北欧建築には珍しい。
無造作な蔦のような壁面の照明配置や、大窓からの光を静かに拡散させる断熱シートの即物的な素材使いと言った、小さいながらも種々に見られるラフな素材使いと入念なプロポーションの検討によって冷たくて小さなコンクリート箱は、内部の花と共に鮮やかに彩られている。
ラルフ・アースキン/Ralph Erskine(1914 – 2005)
https://en.wikipedia.org/wiki/Ralph_Erskine_(architect)ニューカッスルのバイカー再開発などで国際的に知られる(一級建築士学科過去問でも出題あり)
アースキンはイギリス生まれ、スウェーデン出身の建築家である。
ラダンLådan (the Box)
https://sv.m.wikipedia.org/wiki/Fil:L%C3%A5dan_L%C3%B6v%C3%B6n_2009.jpgイギリスで建築教育を受けたアースキンは、第二次世界大戦前にスウェーデンを訪れ、
その自然観やアスプランドやレヴェレンツ、マルケリウスの機能主義的側面に触れた
アースキンは後々の最小限住居の元となるこの小さな矩形を手がける。
カール・アクセル・アッキング/Carl Axel Acking
https://sv.wikipedia.org/wiki/Carl-Axel_Ackingアスプルンドが主宰する設計事務所出身の建築家である。
日本では、前川國男と旧スウェーデン大使館を共作。
作家や家具デザイナーとしても活躍し、
革張りのゆったりとした座面が特徴的なトリエンナアームチェアTrienna arm chairや
ミニマルな木調キャビネットなどの家具の評価が高い。
ビルギッタ教会/Birgitta Church

彫塑的な重みのある、遺跡のような外観に比べて、
内部空間は、レンガ張りの祭壇の壁や床に、丁寧に張られた木の羽目板天井、大きな風鈴のような丸みを帯びた愛らしい照明、愛くるしい木の椅子といった民芸的温かみに溢れている。

この作品から、やはり内部を志向した人だということが腑に落ちる。
スヴェン・マルケリウス/Sven Markelius(1889– 1972)
https://sv.wikipedia.org/wiki/Sven_Markelius元はストックホルム市庁舎の設計者のラグナル・エストベリに師事し、スウェーデン新古典主義の傑作であるホールのファサードデザインを主に担当した彼は、
その後コルビュジェの建築やバウハウスなどからモダニズムの影響を受け、
ストックホルムの都市計画部長なども兼任し、
後にスウェーデンの機能主義建築の第一人者とまで呼ばれるまで活躍する。
ヘルシングボリコンサートホール/Helsingborg Concert Hall(1934)

赤茶色のレンガ建築が立ち並ぶスウェーデンの街中に、
突如、真っ白な宇宙船のようなコンサートホールが出現した当時の驚きは大層なものだっただろう。
モダニズムの影響を一新に受けた彼が、はじめて手がけたスウェーデン機能主義建築ゲームのキックオフとも言える作品である。
簡素化されたミニマルな内部空間はその後のウノ・オーレンUno Åhrénや、
ウルフギャング・ヒューブナーWolfgang Huebnerといった国内の建築家に多大な影響を与えている。
ウルフギャング・ヒューブナー/Wolfgang Huebner(1926-)
https://sv.wikipedia.org/wiki/Wolfgang_Huebner存命の建築家、ヒューブナーは、彼のキャリア初期においては、スヴェン・マルケリウスに師事し、スウェーデン式機能主義を学び、その後、スウェーデンのルンド工科大学Lund University of Technology (LTH)(設計はクラス・アンシェルム/Klas Anshelm )にて教鞭をとった。LTHでアートやコンピュータサイエンスにも勤しんだヒューブナーは、ロンマ教会Lomma churchの屋根デザインにコンピュータを取り入れており、世界で初めてコンピュータを用いた教会であると言われている。
同名にドイツの映画監督もいる。
ストーケラン教会/Storkällans kapell

ヒューブナーのおそらく最高傑作がこの教会である。
現代でいうと、スペインの建築ユニットRCR的な
現象的でインダストリアルな素材遣いは最高にクールである。

https://www.arkitekt.se/author/larsgezelius/
教会建築に多少はあるべき神々しさや、装飾性には目もくれず、
ガラス・金属・無節木をドライに、正確に、構築している。
ハイレンジ教会/Hyllinge småkyrka

キューブに袖壁がついたようなシンプルな外観。
内部も必要以上には飾られず、あっさりとしている。

教会にしては少々色気が足りない気もする正方形な開口部での光の採り方から、
マルケリウス流の機能主義の余波を感じる。
まとめ
如何だっただろうか。
日本ではあまり紹介されてこなかったスウェーデン建築だが、
この記事が、そんな隠された名建築を知るための
一つの小さなきっかけになれば嬉しい。